photo by ©Kiki

＊

白く貼りつくさ
きみの部屋のカーテンに
白く貼りついて離れないさ
冬を超えたものだけが
ぼくがスケートリンクにとじ込められた
きみの日なた
日なただよ

　（「スケートリンク」　より）

＊

　彼女とは、一度だけスケートに行った。最初の約束は2011年３月12日で、前日の震災でそれどころではなくなってしまい、結局その年の秋頃に行った。彼女は運動神経はいい方なのだけど、すごく慎重に、黙々とひとり歩くようにゆっくり滑っていた。物語も現実も、なぜだか時々思わぬ方向へ進んでいく。思い出されるのは楽しいことばかりなのに、わたしはなぜ彼女を失ったのか。そんなことをずっと思い続けるんだろう。ああ本当に、とじ込められた日なた、だ。

　最後に、『詩集』の最後の一編を引用する。風をはらみかすかに揺れるワンピースの裾だとか、麦わら帽子につけられた小さなブローチだとか、子供が適当につかんで放り投げた枯れ葉だとか、なんだかそんな感じの、彼女も、彼女の詩も、ささやかで、ありふれていて、でも手に入れることのできない儚くて美しい夢みたいだ。

＊

わたしは　ある日とつぜん
部屋の隅で死んでいた
小さな陽だまりを
捨てることができなかった

寝返りをうつたびに
わたしのまわりをくるっと飛んだ
午後　目覚めたとき
鳥はひとりになるでしょう

誰もいない子供部屋に
娘は沈んで
午後　空色の服で沈んで
遠泳は終わるでしょう

花嫁は
電車のように過ぎてゆく
ドレスっていうのは銀色
なんてつめたいんでしょう

体温計を振る先生の顔
いちども笑わなかった
いちども笑わなかったね
夢にまで注射をするということだ

　（「午後」　より）

＊

about

アスパラガス（1976-2012）

長崎県生まれ。享年36歳。
詩人としての活動は数年間ながら、現在もコアなファンを持つ。
舞台出演やアニメーション制作なども行い、多才ぶりを発揮。

アニメーション作品

雪　ブランコ

profile

キキ

1998年頃より詩作を、2002年頃より朗読を始める。
ときどきイベントのスタッフをしたり、プロデュースなども行っている。

→HP さかなのまつり

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